MTG │ 大会レポート │ 高橋優太【世界選手権優勝レポート】
第27回世界選手権。
今まで競技マジックに打ち込んできた自分にとって、最高の舞台です。
対戦相手が全員超強いということもあり、質の高い練習が不可欠。大会参加者である僕・井川さん・佐藤レイさんに加えて、熊谷さんと津村さんに調整相手をお願いして、5人チームで練習を行いました。
そのレポート記事になります。
大会の形式はドラフト3回戦、スタンダード7回戦の後にトップ4を決め、その後スタンダードで勝者を決める形式です。
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■ドラフト方針:色の評価の変化
世界選手権前に僕がドラフトで立てていた方針としては2つ。「赤をピックしない」「迷ったら2マナを優先」です。
以前にシールドの記事で、色の評価は「黒>青>白>赤>緑」と書きました。
しかしこの頃から色の評価は変化しており、現在は「青>黒>緑>白>赤」の順で強いと考えています。
理由としては青の組み合わせの良さです。青はコモンの質が高くデッキに入るものが多いため、どの色と組み合わせても強く、失敗デッキになりにくいという利点があります。
黒は除去3種類と《戦墓の大群》がトップクラスに強いのですが、デッキに入らないようなコモンも複数あり、緑黒と赤黒はドラフトで失敗しやすい色と考えていました。
赤はクリーチャーの質が低く「フラッシュバック」「降霊」といったアドバンテージ要素が少ないため、緑よりも弱く、赤を選択したプレイヤーがドラフトでの勝率が悪かったため、最下位に変更しました。
以上の理由により、赤のレアはなるべく引きたくなくて、《無謀な嵐探し》《くすぶる卵》といった赤の爆弾レアよりも、青や黒の優良コモン《踊り食い》《臓器の貯め込み屋》を取りたいと考えていたほどです。
赤のレアの中で唯一《月の帳の執政》だけは、生き残ったらゲームに勝つ性能があるので、タッチする可能性があると考えていました。
「迷ったら2マナを優先」は、2マナをパスすると大きく不利になる『イニストラード:真夜中の狩り』環境では重要です。2マナのクリーチャーは最低でも4枚は必要で、周りのプレイヤーもそれを理解しているため、2マナは奪い合いになります。
同じくらいの強さだったら、2マナを優先。
■初日:ドラフト
初手はこの3択。まずは2マナから埋めて行くという方針から《餌鉤の釣り人》。《猟犬調教師》《溺死者の逆襲》も強力ですし、このピックはかなり意見が分かれるところなのも理解しています。
2マナであり、降霊により《難破船の選別者》がプレイアブルになることから、他の人より《餌鉤の釣り人》の評価が高すぎるかも知れません。
その後は青のカードも黒のカードもデッキに入るようなものは来ず、流れてきた《支配を懸けた決闘》や2マナクリーチャーを取っている内に緑単ピックに。
2パック目で《直接射撃》《蟻の隆盛》などの優良アンコモンを取って緑は決まっていましたが、2色目が決まらないまま3パック目に。
事前にどの赤レアを引いたら赤をやるか考えた事が役立ちました。緑なら多色化がしやすいので、3パック目初手で《月の帳の執政》をピックして多色化を検討。
その後は青の《圧倒される文書管理人》《溺死者の逆襲》が流れてきたこともあり、青緑タッチ赤に。
デッキの組み方を失敗しており、クリーチャーの枚数が必要な《シボウタケの若芽》と、インスタント・ソーサリーの枚数が必要な《秘密を掘り下げる者》は真逆のカードであるのに、この2つが共存しているのはヤバい!
《秘密を掘り下げる者》とマナクリーチャーである《ドーンハルトの再生者》を入れ替えて、もっと多色コントロールに寄せた形を目指すべきでした。
あとカカシ2枚もダメ、せいぜい1枚まで。
デッキの組み方もプレイも悪く、ドラフトの結果は0勝3敗!
仕方ない、これが実力だ。
開幕から窮地に陥り、スタンダードへ移行します。
■スタンダード:世界選手権前のメタゲーム
事前のデッキ分布として、多いと予想していたのは「緑単」「イゼットターン」の2つでした。
先行での《群れ率いの人狼》《老樹林のトロール》《エシカの戦車》の動きに対抗できるデッキはほとんど存在しません。
《不詳の安息地》《レンジャー・クラス》により長期戦を戦う力もあり、緑単はアグロデッキの中で最高の攻撃力と持久力を持つデッキです。
しかし、相手に干渉する力が低いという欠点があります。格闘でクリーチャーを除去するのみで、相手の全体除去や《アールンドの天啓》を妨害する手段はありません。
先攻ならば非常に強いデッキなのですが、2マナのクリーチャーからスタートするデッキなので、1ターンに1アクションしかできない場合があり、後攻で守る展開に難ありという評価でした。
超強い対戦相手に対して「緑単ミラーマッチの後手で勝てる策はあるか」と聞いたら、答えはNoでした。そのため緑単を倒す方向で調整が進みました。
イゼットターンは序盤は除去や《ゼロ除算》しながら時間を稼ぎ、《アールンドの天啓》を予顕してから8マナがそろったタイミングで《感電の反復》《アールンドの天啓》のコンボにより追加2ターンを獲得する、コンボとコントロールの中間のデッキです。
このコンボは打ち消し呪文でしかほとんど干渉できないため、青でない中速デッキに対して特に有利です。
実際、緑単の流行により除去の多い黒のコントロールが少しだけ台頭したのですが、イゼットターンに全く勝てずに姿を消していきました。
緑単を倒すにはクリーチャー除去が必要、イゼットターンを倒すには打ち消しが必要。
しかし緑単に対して打ち消しは弱く、イゼットターンに対して除去は弱いので、相反する2つの性質が、デッキ構築を難しくさせていました。
■スタンダード:イゼットドラゴン
世界選手権 By高橋 優太【インポートデータ】 | |
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デッキリスト | |
7:《島/Island》 4:《山/Mountain》 3:《凍沸の交錯/Frostboil Snarl》 4:《河川滑りの小道/Riverglide Pathway》 2:《ストーム・ジャイアントの聖堂/Hall of Storm Giants》 20 lands 4:《くすぶる卵/Smoldering Egg》 |
1:《消えゆく希望/Fading Hope》 1:《棘平原の危険/Spikefield Hazard》 4:《ドラゴンの火/Dragon’s Fire》 4:《表現の反復/Expressive Iteration》 3:《ジュワー島の撹乱/Jwari Disruption》 2:《轟く叱責/Thundering Rebuke》 1:《否認/Negate》 2:《ゼロ除算/Divide by Zero》 1:《雲散霧消/Dissipate》 1:《プリズマリの命令/Prismari Command》 1:《襲来の予測/Saw It Coming》 4:《記憶の氾濫/Memory Deluge》 3:《アールンドの天啓/Alrund’s Epiphany》 4:《髑髏砕きの一撃/Shatterskull Smashing》 32 other spells 4:《心悪しき隠遁者/Malevolent Hermit》 |
チーム練習の経緯では、僕はイゼット係として「イゼットターン」「イゼットドラゴン」の両方を調整していました。
その時に気になったのが、「イゼットターン」のマリガン後の弱さです。
《アールンドの天啓》はスタンダードを代表する強力カードですが、いつ引いても強いカードというわけではありません。
何もない場で7マナでプレイしても1/1飛行2体+1ドローで終わってしまい、これだけでは強力とまではいかない効果です。
追加ターンを得る呪文は、事前にクリーチャーを並べることで攻撃回数を増やしたり、土地を10枚以上並べることでより多くのマナを使えるなど、事前に準備をすることにより高い効果を発揮します。
プレイする前に相手と五分以上の場を作ることによって、五分を有利に変えます。性質としては前環境のスタンダードにあった《エンバレスの宝剣》に似ていると考えており、プレイするまでにある程度盤面を作る必要があります。
《感電の反復》も少し似た性質を持っており、単体では何もしないので、他の下準備が必要です。
カード単体で見た時、この2つは手札をうまく使えない事故の要因になり得ます。例えばマリガンしたときには《アールンドの天啓》《感電の反復》をライブラリーに戻すことが多いです。
もっとシンプルに言うと、《感電の反復》《アールンドの天啓》コンボを決めるには土地8枚を含めた10枚のカードが必要になり、これは決して簡単なことではないのです。
「イゼットターン」と「イゼットドラゴン」を交互に回して感じたのが、ドラゴンの方が勝つために必要なカードが少なくて済む点でした。
《くすぶる卵》からの《アールンドの天啓》なら土地6枚を含めた8枚のカードで済み、変身後に有利な盤面を構築しやすいです。
もっと簡単なのは《黄金架のドラゴン》からの《アールンドの天啓》で、これなら土地5枚を含めた7枚のカードで勝利条件を達成できます。
勝つために必要な枚数は、少なければ少ないほど良いです。
極端な例を出すと、土地1枚と《敏捷なこそ泥、ラガバン》で勝てるなら、残りの手札を全て相手への妨害に使う事が出来ます。土地2枚と《タルモゴイフ》や、土地3枚と《王冠泥棒、オーコ》も同様です。
勝つために必要なカード(デッキのコアパーツ)が少ないほど、デッキの行動出来る範囲が広がっていくというのが、僕がデッキ構築の際に考えていることです。(もちろん、現実は土地1枚と《敏捷なこそ泥、ラガバン》で勝てることは少ないので、あくまでも1つの例としてです)
「イゼットターン」が意識された場合、《才能の試験》といった打ち消し呪文や、《心悪しき隠遁者》で対策されやすい。そうなった場合、追加ターンコンボを決めるよりもクリーチャーで攻撃する選択肢が取れるようにしたい。
「イゼットドラゴン」の方が勝つために必要なカードが少ないため、広範囲に相手へ対応するカードを採用することが出来て、どのデッキが来ても極端に不利になる事はないはず。クリーチャーで攻撃する選択肢も取れる。
そう考えて、「イゼットドラゴン」使用を決めました。
各カードについても解説していきます。
《くすぶる卵》は緑単に対してのブロッカーになる点から、初手キープの基準にもなり、変身すればフィニッシャーになれる性能。後半引いた場合でも、《アールンドの天啓》や《記憶の氾濫》フラッシュバックにより変身も容易。
スタンダードでベストと言える2マナ域で、練習の後半では「イゼットターン」でもメインに採用していたほど強いカードです。
《パワー・ワード・キル》ではドラゴン(《くすぶる卵》《黄金架のドラゴン》)・を倒せず、《安堵の火葬》の3点では《エシカの戦車》を倒せない。《運命的不在》《悪意の熟達》では相手にドローを与えてしまう。
ローテーションにより《無情な行動》が落ちてしまい、現在のスタンダードの2マナ除去は少しデメリットのあるものが多いです。
《老樹林のトロール》《溺神の信奉者、リーア》《黄金架のドラゴン》など、今のスタンダードはタフネス4に強いクリーチャーが集中しているため、3点ダメージと4点ダメージでは除去できる範囲に大きな差があります。《安堵の火葬》では不十分。
唯一《ドラゴンの火》だけはインスタントタイミングで4点を与えられる除去であり、2マナの除去として最も優れています。《ドラゴンの火》を使える点も、イゼットドラゴンを選んだ理由の一つです。
《消えゆく希望》は緑単には《老樹林のトロール》や《レンと七番》トークンを戻したりとかなり強いのですが、イゼットに対してあまり強くないため、多くの枚数を採用することにリスクがあると判断しました。
《記憶の氾濫》は、スタンダードで使われたドロー呪文の中でも歴代2位の性能です。(1位はレガシーでも禁止の《時を越えた探索》で、3位は《嘘か真か》です)
フラッシュバックが付いている点で《嘘か真か》を超えた性能であり、長期戦になるほど強いカードです。今後青いデッキを組むならまずは《記憶の氾濫》4枚からスタートになると思います。
世界選手権はデッキ公開制なので、相手のプレイを簡単にさせないために、打ち消し呪文の枚数を散らしました。
《否認》はイゼットターンに強く、緑単に対しても最低限はプレイできます。《才能の試験》だと緑単に対して手札で腐ってしまうリスクがあるので《否認》にしました。
自分が《記憶の氾濫》を強いと考えている以上、相手も使ってくると予想して、追放効果のある《雲散霧消》を1枚。
予顕のカードが1種類だけだと《アールンドの天啓》と見破られてしまうので、相手のプレイを簡単にしないために《襲来の予測》も1枚。
どれも複数引いた場合には弱いリスクがあるので、ハマったときに強い1枚ずつの採用です。ドロー呪文が強い環境だと探してきやすいので、こういった1枚差しの効果が普段よりも上がります。これはレガシーでも有効なテクニックです。
《ゼロ除算》は盤面と呪文両方に触れる便利なカードですが、手札に戻すのみで根本的な解決にはならないので、それとは別に確定の打ち消し呪文も必要。
《差し戻し》と良く似ており、3-5マナが中心の相手には強いですが、1-2マナに集中したデッキに弱い性質があります。白単などにすべてサイドアウトできるような枚数にしたいと考えて、2枚になりました。
講義カードに関しても。
土地事故防止の《環境科学》と後半のフィニッシャーになる《マスコット展示会》は必須ですが、《アルカイックの教え》には疑問がありました。
《アルカイックの教え》は相手の動きに依存するカードであり、相手の土地が止まったり《消えゆく希望》で戻したりして手札が多いときには使えますが、プレイできないこともしばしば。そもそも3マナ2ドローも少し重い。
多くの場合に《環境科学》《マスコット展示会》の2択だったので、欲しい場面が少ないと感じた《アルカイックの教え》はカットしました。
《プリズマリの命令》は2点で除去するカードがないことからイゼットに弱く、《エシカの戦車》を除去できるので緑単に強い性質があります。イゼットに弱い点を懸念して1枚です。
火力や《消えゆく希望》だけだと、相手の《エシカの戦車》が通った時に苦労するので、《エシカの戦車》用としてサイドボードに追加を取っています。
《くすぶる卵》との相性を考えて最初は《考慮》が入っていたのですが、次第に抜けていきました。
理由として、スタンダードは2ターン目に2マナの呪文、3ターン目に3マナの呪文といったように、マナをフルで使うことが求められているため、《考慮》を撃つターンがほとんどなく、与える影響が小さいからです。
土地を探すために《考慮》をプレイする行為が弱く、それなら《考慮》4枚+土地24枚のような構成よりは、両面土地を含めた土地28枚の構成の方が良いと考えて、不採用になりました。
《ジュワー島の撹乱》は土地が止まっている時を除き、呪文としてプレイすることが多いです。《黄金架のドラゴン》の宝物からもプレイしやすい。
ただこのカードは相手が上手いほどケアされやすく、これを構えたことにより裏目が発生するカードでもあります。チーム練習中は常にケアされて自分の2マナ損になっていました。特に後手は、1ターン目に置く判断も必要です。
《髑髏砕きの一撃》はXの値を大きくできるので《くすぶる卵》の変身を容易にしてくれます。《黄金架のドラゴン》からマナが多く出るので、X=6でプレイすることもかなり多いです。除去ついでに《黄金架のドラゴン》を対象して宝物を生み出す小テクも覚えておきましょう。
ドラゴン両方と相性が良いことから、《髑髏砕きの一撃》は4枚フル採用です。
《棘平原の危険》は《心悪しき隠遁者》対策のカードですが、土地として確定タップインであることから、《髑髏砕きの一撃》よりは優先度はかなり落ちます。イゼットドラゴンが2→3→4→5と綺麗に動きたいデッキでもあるので、タップインの土地は極力少なくしましょう。
■大会結果
予選ラウンド
×ドラフト
×ドラフト
×ドラフト
〇イゼットターン
〇グリクシスターン
〇白単アグロ
〇白単アグロ
〇青白アグロ
〇緑単アグロ
〇グリクシスターン
決勝ラウンド
〇ティムール
〇グリクシスターン
〇ティムール
0-3から、まさかの全勝!
世界選手権優勝という、最高の栄誉を手にすることが出来ました。
今回グリクシスターンと多く対戦しており、グリクシスが《黄金架のドラゴン》を綺麗に除去できるカードが少なかった事が一番の勝因だと考えています。
■おわりに
My childhood dreams comes true. World Champion!
The instant spell exchange with Depraz was the most fun.
Big thanks to my best friends who practiced with me.
Yoshihiko,Rei,Riku,and Kenji.世界王者になりました。
一人では決して成し得なかったと思いますし、練習仲間に感謝。 https://t.co/gc6xgE3H9G— Yuta Takahashi (@Vendilion) October 11, 2021
子供の頃から夢見ていた世界チャンピオン。
チームメイトとの練習の日々があってこそ、ここまで来れたと思っています。
同じカードラッシュプロである井川さんにも、特別な感謝を!
今回の優勝を記念して、カードラッシュではセールを行います。
この機会にぜひ、カードラッシュ通販を利用してみてください。
それではまた。