MTG │ 大会レポート │ 井川良彦【チャンピオンズカップファイナル優勝レポート】

皆さんこんにちは。Rush Prosの井川です。

先週末に開催されたチャンピオンズカップファイナル シーズン2サイクル2。ご存知の方も多いかもしれませんが、なんと「優勝」という最高の結果を残すことができました!!!!


今回の記事では、その調整過程と簡易レポートをお届けしたいと思います。

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■調整メンバーについて

公式でのインタビューにもあるように、今回は普段活動しているDiscordサーバーのメンバーと行いました。


※今回の調整メンバー。サーバーには他にも市川・高橋・八十岡など豪華メンバーが在籍してます。

従来の調整チームとは少し趣が異なり、今回は従来ほどビシッとルールを決めてやったわけではなく、日常からの延長線上で行ってました。マジックをやるときに適当にDiscordに入る。画面共有しながらリーグをやったり、お喋りしたりする。使ったデッキリストと成績等はスレッドに載せる。その積み重ねです。

ただし特に細かい決まり事がなくとも活動頻度は極めて高く、土日も含めてほぼ毎日誰かがDiscordにいて画面共有を行ったり成績を載せたりと、その濃密さは間違いなく国内でも随一だったと思います。


※Discord内、モダンスレッドの一部。いろんなメンバーが様々なデッキを網羅的に回していました。少し回してすぐ諦めた墓標も多々。

■『カルロフ邸殺人事件』がモダンに与えた影響

◎《ギルドパクトの力線》

カードリストが発表されて、一番話題になったのは《ギルドパクトの力線》でしょう。《ドラコの末裔》との2枚コンボは見た目のインパクトも実際の破壊力も抜群で、Magic Onlineに実装されてすぐに頭角を表しました。

■ドメインズー・サンプルリスト

さらに、《ギルドパクトの力線》+《ドラコの末裔》パッケージが他のデッキでも使用できることに目をつけたプレイヤーも。ティムール続唱には以前から《力線の束縛》を入れた4色バージョンが存在しており、それにこのパッケージを追加したのです!

■版図続唱・サンプルリスト

ギルドパクトの力線》+《ドラコの末裔》のコンボはライフを攻めてくるデッキに滅法強く、エリア予選を突破した上位デッキの中でもラクドス想起とバーンは少しポジションが悪くなりそうだなと感じました。

◎諜報ランド

そして地味ながらも確実に影響を与えたのが諜報ランド。「諜報1」は無料で付いてくる能力としては破格で、フェッチランドが入っている全てのデッキで検討に値するほどです。

特に「3マナまでは欲しい」「過剰な土地は不要」「8枚入っている続唱カードが必要」といった要素を備えているティムール続唱にとっては最高のアップデートであり、ほとんどサイクリングする機会のなかった《ケトリアのトライオーム》を廃した構成が一般的となりました。

■ティムール続唱・サンプルリスト

諜報ランドで強くなったデッキがある一方、その登場により相対的に弱体化したデッキもありました。それがラクドス想起です。

思考囲い》《悲嘆》といった手札破壊を絡めたビートダウンですが、対するティムール続唱やリビングエンドはそれに対して諜報ランドで対抗できるように。フェッチランドからサーチすることにより、従来よりも1ゲームあたり2-3枚多くライブラリーを掘れるようになり、落とされた続唱を引き直す確率が上がったのです。

もちろん自身も諜報ランドを採用することにより安定性が上がりましたが、相手側のプラスの方が大きく働きます。

元々上位メタであるティムール続唱やヨーグモスに不利な上に、一般的なリストと差別化ができなかったこと、前述の《ギルドパクトの力線》+《ドラコの末裔》デッキの隆盛もあり、僕らは次々とラクドス想起を諦めることとなりました。

■リビングエンドについて

そして、ティムール続唱よりも諜報ランドのバリューが高いのがリビングエンドです。

「諜報1」とは、ライブラリートップのカードを1枚落とせるということ。そしてライブラリーの50%以上をクリーチャーで占めているリビングエンドにとっては、その諜報1は50%でクリーチャーサイクリングと等価となります。
ただ土地を置くだけで墓地が肥える。こんなに嬉しいことはありません。

従来のリビングエンドは1マナサイクリングを連打して墓地を肥やして《死せる生》に繋げていましたが、その分フェッチ+ギルドランドのライフ損失も激しかったのも事実。

その点を諜報ランドでタップインをしつつ墓地を肥やすことにより、ライフをある程度高い水準で担保しつつ手札のカードを《否定の力》《緻密》《悲嘆》などのピッチコストに安定して充てられるようになりました。

また、元々リビングエンドというデッキは「土地」「サイクリング」「続唱」をバランス良く引く必要があり、運が悪いとサイクリングが連鎖しない→墓地が肥えない→《死せる生》を打っても勝てない、という事態も起こる構造でした。
ですが今回諜報ランドが入ったことにより、「フェッチ、土地、土地サイクリング、続唱」みたいなこれまでなら回る見込みの薄い悲惨な手札でも、諜報ランドを2回サーチすることにより高い確率で3ターン目に2-3体戻せるようになりました。

少ないリソースで墓地を肥やせるというのは、マリガン耐性の向上にも繋がりますし、さらにはサイドボード後の《忍耐》などと戦うときにも大きく関わってきます。

一度掃除されてもフェッチがあるだけでリカバリーが見込めますし、《死せる生》スタックで《忍耐》を出されてもフェッチ1枚立っているだけでスタックで諜報1を行うことによりクリーチャーを落とせる可能性があるのです。

■使ったリストの紹介と簡易レポート

チーム内ではその強さと安定感からリビングエンドとティムール続唱の2つの評価が高く、最終的に二分されることとなりました。

僕が選んだのはリビングエンド。デッキタイプだけで言えばティムール続唱の方が好みですし使い慣れていたのですが、今回はリビングエンドの方が最大値が高く、かつティムールが多いフィールドを予想している以上は有利なデッキを使うべきだと思い選択しました。

チームの中でもリビングエンドを選んだメンツ(井川、宇都宮、熊谷、平山、増田、矢田、行弘)でもリストは全員微妙に異なり、メインの土地は15なのか16なのか、《虚空の力線》は要るのか、《ドラニスの判事》対策は《四肢切断》なのか《厚かましい借り手》なのか等細かい部分は各自の好みに任せることとなりました。

■本戦で使用したリビングエンド

【インポートリスト】

ということでリビングエンドです。知らない方もいるかと思うので簡単に説明します。

秘法の管理者》や《オリファント》、《通りの悪霊》のようなサイクリングクリーチャーを次々と墓地に送っていき、《暴力的な突発》《断片無き工作員》の8枚から捲られる死せる生》で一気に相手の盤面を掃除しつつ圧倒的な盤面を作る、墓地を利用したコンボデッキです。

リビングエンドは長い間モダンに存在するデッキであり、昔は比較的マイナーなデッキでしたが、モダンホライゾン1(《否定の力》)、モダンホライゾン2(《悲嘆》《緻密》《断片無き工作員》)、そして指輪物語(《オリファント》《気前のよいエント》)と着々と強化されていき、今ではモダンの上位メタデッキの一つとして数えられるようになりました。

しっかり回れば「0マナでカウンターを打ちつつ」「0マナで手札破壊をしながら」「たった3マナで相手の盤面を全て流しながら」「20点以上のクロックを出す」という、モダンの限界点ともいえる爆発力のあるデッキです。
その上、大量のサイクリングと8枚の続唱カードを有しているため再現性が非常に高く、墓地対策のないメインボードでは無類の強さを発揮するデッキでもあります。

極度に墓地に依存しているデッキなので《虚空の力線》《安らかなる眠り》《忍耐》のような墓地対策は苦手としていますし、《死せる生》が打てなくなる《虚空の杯》《ドラニスの判事》《時を解す者、テフェリー》なども対策カードとして使用されます。

ですが墓地対策をされても、墓地対策のためにハードマリガンした相手に対して《砕骨の巨人》《忍耐》《秘法の管理者》などを(墓地を経由せず)普通にプレイして攻勢をかける、ミッドレンジ的な側面も持ち合わせています。この点を理解しないと、ただ墓地対策だけを並べてクリーチャーたちに撲殺されるので注意しましょう。

なお、リビングエンドの基本的な動き等については、調整メンバーである増田くんが過去に執筆した素晴らしい記事がありますので、そちらも合わせてご参照ください。

■「リビングエンド」デッキガイド ~勝利は墓地からやってくる~(晴れる屋メディア)
■「リビングエンド」アップデートガイド ~『指輪物語』からの新戦力~(晴れる屋メディア)

一般的には0-1枚程度しか採用されていなかった諜報ランドを大胆にも3枚採用したのが、今回の僕たちのリビングエンドの大きな特徴でしょう。

またそれに合わせて1マナサイクリングを減量し、また諜報で落としたい&土地サイクリングである《気前のよいエント》《オリファント》を最大枚数採用してあります。「諜報ランドをプレイすることは、1マナサイクリングとほぼ同等の強さである」という思想での構築です。

諜報ランドは0-4枚まで試して、最終的には1:1:1の3枚で落ち着きました。基本的には青緑と青赤からサーチし、《気前のよいエント》《オリファント》どちらでもサーチできるように赤緑を最後に残しておくことが多いです。

純粋なサイクリングを減らして土地サイクリングを増やしているので、安定して土地は伸びる&諜報ランドのおかげで墓地は肥えますが、後半のトップデッキは少し弱くなっています。土地が潤沢にあるときに土地サイクリングばかり引いても仕方ないですからね。そこでデッキの潤滑油としてこの《孵化+不和》が採用されることとなりました。意思切る者》の2枚目よりこちらの方が強いという判断です。

土地が少ないときは土地サイクリングを、続唱がないときは《断片無き工作員》を、仕掛けたいときは《悲嘆》およびそのコストを探しに行くことなど用途は多岐に渡ります。青と緑であるためピッチコストにしやすいのも◎。

また、本戦では一度も当たりませんでしたが《不和》は《ドラニスの判事》《アゾリウスの造反者、ラヴィニア》といったヘイトベアーへの対処手段も兼ねています。

なお、公式のインタビューでも述べた通り、僕自身はリビングエンドには後乗りでした。よってより詳細な解説につきましては、後日晴れる屋さんに掲載されるHareruya Pros・平山くんの記事をご覧ください。僕も楽しみにしてます。(ハードルを上げていく男)

◎本戦の結果

■Day1
R1 ティムール続唱 ○○
R2 イゼットマークタイド ◯×◯
R3 バーン ○○
R4 リビングエンド ◯◯
R5 ティムール続唱 ◯◯
R6 リビングエンド ×◯△
R7 バーン ××
R8 リビングエンド ×△

5連勝したものの失速して5-2-1で2日目へ。
ミラーマッチで2ゲームも引き分けてしまい疲労困憊。墓地の貯め方、盤面の作り方など難しいゲームが多く、かつ一度膠着するとお互いが《気前のよいエント》で睨み合うためコンバットすらままならない、悲惨なゲーム展開もありました。

■Day2
R9 ウルザソプター ◯◯
R10 ドメインズー ◯◯
R11 ヨーグモス ◯×◯
R12 イゼットマークタイド ◯×◯

QF リビングエンド ◯◯
SF ティムール続唱 ◯×◯
F ティムール続唱 ◯◯

なんと2日目を7-0で優勝!!!!!!!!!

初日終了時点では全く想像もしていなかった、望外の好成績です。
デッキ選択や僕らの作ったリビングエンドのリストには自信ありましたが、それだけで勝てないのは百も承知。「早く負けたら反町のメンヤード行ってみたいな」と食べログを調べてたぐらいです。4連勝したときは本当に驚きましたし、久しぶりのプロツアー権利獲得に心底喜びました。

決勝ラウンドに入ってからは既にプロツアーの権利を獲得したということもあり、過度に緊張せずゲームできました。ドローも強く、それに応えるようにプレイも冴えていたと思います。

初めてのタイトル、初めてのトロフィー。本当に嬉しいです!

改めて対戦結果を見直してみても

・ダイスロールで先手が多かった(初日はダイス8-0!)
・不利~苦手な相手(ラクドスやオムナス、トロンなど)にほとんど当たらなかった
・かなり都合の良いドロー、トップデッキが多かった

など幸運だったことは疑いようもありません。

ですが

・上位デッキはほぼ網羅的に練習しており、各デッキに対する理解度が高かった(ほぼ全てのメタ上位のデッキを自分で触って確かめました)
・優秀な仲間たちと、質の高い調整・議論ができた(その末に良いデッキリスト、良いプレイが生まれました)
・好みに拘らず、一番良いデッキに乗り換えることができた(リビングエンドは同週の地域選手権すべて合わせても最高勝率のデッキでした)

といった部分は間違いなく運だけではありません。僕の努力と選択の結果だと言えるでしょう。

カードゲームである以上、運が悪い日はどんなトッププロでも負けてしまいます。運が良いときにいかに勝つか。「人事を尽くして天命を待つ」ことが大事だと常々考えています。

今回は一番ツイている日に、一番良いデッキとプレイで応えられた。その結果が優勝という最高の成績に繋がったのだと思います。

そして今回の優勝で改めて思ったのは、自分が勝ったときに多くの人に祝ってもらえることがいかに幸せなことか。LINEやX(Twitter)での祝辞やいいね、リプライ、全部目を通してます。ずっと練習に付き合ってくれたチームメンバーをはじめ、皆さん本当にありがとうございます!

またこの1年間全く勝てていなかったにも関わらず、我慢強くスポンサードを継続していただいているカードラッシュにもこうして結果で恩返しできて良かったです。記事や解説などで露出するのも良いですが、やはりプレイヤーたるもの結果で応えたいですからね。

■終わりに

今回の優勝により、プロツアーシアトルの権利、そして世界選手権の権利を一気に手に入れることができました!やったね!!!

ですが喜んでばかりではいられません。客観的に自分を見直してみると、ここ1年間最前線=プロツアーから離れていたこともあり、今の僕のスキルは一線級のトッププロたちと比べると遥かに劣ることは疑いようもありません。特にリミテッドについてはプレイする機会が減っていたこともあり、かなり下手になっていると自覚しています。次回のプロツアーに向けて改めて腕を磨かなければ、また簡単に初日落ちしてしまうでしょう。

ここがゴールではなく、新たなスタート。今回の優勝に満足することなく、引き続きマジックに真摯に取り組んで行きたいと思います。引き続き応援よろしくお願いします!

それでは今回の記事はここまで。また次回の記事でお会いしましょう!


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