MTG │ デッキ解説 │ 井川良彦【日本選手権2020ファイナル準優勝 イゼットテンポ】
皆さんこんにちは。Rush Prosの井川です。
先週末に開催された日本選手権2020ファイナルズに出場し、準優勝しました!
ということで日本選手権2020ファイナルは一歩及ばず準優勝でした。ご声援いただきありがとうございました!
優勝はできなかったものの、走り込んだ成果が出せて嬉しいです。再来週末はまたライバルズリーグがあるので、引き続き練習頑張っていこうと思います。最後に、たまちゃん優勝おめでとう! pic.twitter.com/aDVmRcWahy
— Yoshihiko Ikawa (@WanderingOnes) February 13, 2021
あと一歩及ばず悔しい気持ちもありますが、事前に配信で使うデッキを予告先発していた&自信があると豪語していたので、しっかりと好成績が残せたことが嬉しいなという気持ちのほうが大きいですね。もちろん賞金も嬉しいです(笑)
ということで今回の記事は、大会で使用したイゼットテンポ(※)の解説です。
※イゼットコントロール、イゼットドラゴン、イゼットミッドレンジ、デッキの呼び方はなんでも良いです。僕の呼称はMTGMelee準拠です。
既にメタゲームがかなり動いているので、すべてが参考になるかは微妙なところですが、「何をどう考えていたのか」といったエッセンスだけでも伝われば幸いです。
※ラッシュメディア記事内紹介のカードは
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■イゼットテンポとは?
イゼットテンポはアーリーアクセスにおいて超強豪・LSVが作成したいわゆるクロック・パーミッションです。メインボードの構成が当時からほとんど変わっていないことから、その完成度の高さが伺えます。
Goldspan Dragon really impressed me today – unless they have a counterspell, even removal generates a Treasure which can pay for your counter, making it a really powerful threat. Here's a UR Flash deck that seemed promising, with the Foretell cards playing very nicely too. pic.twitter.com/PO6q4uuIc3
— Luis Scott-Vargas (@lsv) January 28, 2021
『カルドハイム』で新加入した大型フライヤー《黄金架のドラゴン》を最も上手く使えるデッキとして誕生しました。
《砕骨の巨人》《厚かましい借り手》という優秀な出来事クリーチャーが使えること、そして新ギミックである「予顕」を活用できることもあり、環境の最初期に人気が出ましたが、その細さ=プレイの難しさにより、今では一部のマニアしか使っていないデッキとなった、というのが僕の認識です。また、難しいデッキ=弱いデッキというのも一部を除き真なので、このイゼットテンポを、チームメイト含めた誰にも勧めませんでした。
イゼットテンポの勝ちパターンは主に2つです。
1.除去・バウンス・カウンターを駆使してダメージレースで勝つ
2.すべてを捌いてアドバンテージ差で勝つ
この2パターンのどちらに舵を切るかは毎ゲーム毎ターン、場面場面で変わりますので、相手の手札予測、自分の手札/今後の展開の評価をしたうえで、臨機応変に対応する必要があります。
これがイゼットテンポの一番難しいところですので、練習で数をこなして攻守のバランスを磨くことが、安定した勝率への第一歩となるでしょう。
■今回使ったリストについて
日本選手権2020ファイナル準優勝 By井川 良彦 | |
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デッキリスト | |
7:《冠雪の島/Snow-Covered Island》 3:《冠雪の山/Snow-Covered Mountain》 3:《移り変わるフィヨルド/Volatile Fjord》 4:《寓話の小道/Fabled Passage》 4:《河川滑りの小道/Riverglide Pathway》 3:《不詳の安息地/Faceless Haven》 24 lands 4:《厚かましい借り手/Brazen Borrower》 |
3:《霜噛み/Frost Bite》 2:《本質の散乱/Essence Scatter》 2:《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke》 2:《否認/Negate》 3:《襲来の予測/Saw It Coming》 1:《神秘の論争/Mystical Dispute》 4:《多元宇宙の警告/Behold the Multiverse》 4:《サメ台風/Shark Typhoon》 3:《髑髏砕きの一撃/Shatterskull Smashing》 24 other spells 1:《霜噛み/Frost Bite》 |
今回使ったデッキは、メイン《襲来の予測》1枚を《神秘の論争》に変更した以外はほぼテンプレといえるリストです。これは思考放棄したわけではなく、使い込んだ結果特に文句ない構成だったからです。個性を出そうとしてリストを変えるとむしろ弱くなると感じました。
ということで毎度おなじみですが、各カードについてポイントだけ解説しています。
★《黄金架のドラゴン》
「ドラゴンが走ってカウンターを打つ」というのは間違いなく黄金パターンの1つですが、それに固執してはいけません。
どのマッチでも同じですが、除去にカウンターを打つのは勝ちへのルートがほぼ確定しているとき。基本的にはデッキに複数あるアタッカーの1枚でしかなく、価値を重く見すぎることは良くないケースが多いです。
このカードが最も輝くのは、除去の枚数が限られている&ダメージレースになるパターンが多いグルールアドベンチャー相手で、逆に除去が豊富なスゥルタイ根本原理や、アクションが大きすぎるローグ相手にはあまり活躍しません。特にローグ相手は《アゴナスの雄牛》をサイドインする都合もあり、全部サイドアウトします。
★《不詳の安息地》
このデッキで最も強いカードの1枚です。イゼットテンポを使うのであれば、このカードを減らすのは絶対にNGです。
先に示した「ダメージレース勝ち」「アドバンテージ勝ち」のどちらにも寄与してくれる稀有な1枚であり、引きすぎて色マナ(=アクション数)が厳しくならない限りは何枚でも引きたいカードです。
特にロングゲームをするマッチでは「全部を1対1交換した結果、最終的に《不詳の安息地》が残って勝つ」というのが最も多い勝ちパターンなので、このカードの枚数の削減はそのまま勝率の低減につながることでしょう。
★《精神迷わせの秘本》
メインの《多元宇宙の警告》の上から、サイドボード後のロングゲーム用に追加のアドバンテージ源が欲しいなということで採用したのがこちら。軽いので最序盤にカウンターを気にせずプレイできる点、そして1枚で最大4枚ドローできるというバリューの大きさが魅力です。
他の候補としては《老いたる者、ガドウィック》と《彫像の伝承》がありましたが、どちらも「土地が伸びたあとのカード」なので最序盤のスクリューやマリガンに弱く、かつ相手の《神秘の論争》に弱いので断念。
★《アショクの消去》
《サメ台風》合戦で《厚かましい借り手》を使い果たした末、カウンターを構えているところに《星界の大蛇、コーマ》ドーン!負け!!!!
という事態を防いでくれる重要な1枚。むしろコレなしで他のイゼットプレイヤーがどうやって《星界の大蛇、コーマ》を乗り越えていたのか疑問なほど。
《星界の大蛇、コーマ》以外にも、《古き神々への拘束》の様に複数枚入っているカードを閉じ込めるのにも有用ですし、《神秘の論争》には弱いものの、追加の確定カウンターとしては最低限の働きをしてくれます。
★《灰のフェニックス》
《エルズペスの悪夢》が入っていないスゥルタイ系にサイドインすることもありますが、基本的にはほぼディミーアローグ専用枠。
《アゴナスの雄牛》だけに寄せるより、この《灰のフェニックス》を入れておいた方が殴るプランが取りやすく、かつライブラリーアウト負けのパターンも減ります。
ただローグが減りつつある状態であり、次にこのデッキを使う際はこのカードを抜いて単色アグロ対策のカードに枠を譲るでしょう。
★《嵐の怒り》
ある程度試した結果、最終的には抜けたカード。
今のアグロはこれで全滅することは少なく、ただアクションが重い、不器用なソーサリー除去という認識です。
これを使うぐらいなら《霜噛み》《焦熱の竜火》をしっかりと採用した方が勝率が上がります。アグロに強いようで弱い、バッドな1枚。
■スゥルタイ根本原理とのゲームプランについて
先日の日本選手権2020ファイナルにおいて、僕は「イゼットテンポはスゥルタイ根本原理に”ある程度”有利である」という感触を持って臨みました (超有利=7:3以上あるとは思っていません。念のため)。
その理由は主に「スゥルタイ根本原理には実はマストカウンターが少ない」「手札の枚数を増やす(質を向上させる)カードが少ない」という点に集約されます。
★「スゥルタイ根本原理には実はマストカウンターが少ない」
4枚の《出現の根本原理》とその中身である《嘘の神、ヴァルキー》《キオーラ、海神を打ち倒す》《海門修復》、それらを通すときの《強迫》《否認》。絶対にカウンターしなければならないカードは、実際のところこの程度しかありません。
一見するとマストカウンターに見える《アールンドの天啓》も、基本的には「6マナで1/1飛行を2体出す。1ドローする。」というだけのカードです。1/1飛行2体が致命的にならない限りは通してしまっても問題ありません。(そして大抵の場合は無視できます)
《空を放浪するもの、ヨーリオン》ですら通しても問題ないことがあります。戦場の《海の神のお告げ》や自分の手札にもよりますが、特にメインボードでは貴重なカウンターを温存して、余っている《霜噛み》で処理することも多いです。1-2ドローぐらい許しましょう。
★「手札の枚数を増やす(質を向上させる)カードが少ない」
スゥルタイ根本原理はいわゆるランプデッキであり、大量の土地とマナ加速が採用されています。《耕作》《古き神々への拘束》といったアドバンテージカードはあるものの、どちらも得する1枚分は土地1枚であり、手札が強くなる=手数が増えるカードは最低限しか入っていないリストが大多数です。《サメ台風》には同数以上の《サメ台風》&《厚かましい借り手》で対抗できるので大きな問題にはなりません。
★この仮説から立てた戦略
そこで、こちらはドロースペルで手札を増やし、すべてのカードを1対1交換していけば、手札の枚数差および戦場に残る《不詳の安息地》だけで勝てるという仮説を立て、それを実行できるサイドボードを作りました。
相手を枯渇させるのが大事なので、相手のアドバンテージ源(《精神迷わせの秘本》や《多元宇宙の警告》が入っていれば)は絶対に消したい。またダラダラやっても負けないというプランなので、相手の《出現の根本原理》やそれをバックアップする《強迫》《否認》を消すためにもメインサイド合わせて《否認》は4枚。
手札の枚数差を付け、相手の中身よりも多くのカウンターを引くことが大事なので、追加のアドバンテージ源として《精神迷わせの秘本》を採用。一般的なリストにはこのカードが採用されていないことも多いですが、イゼットテンポでスゥルタイ根本原理に勝ちたいならば必須の1枚だと考えています。
そして「勝つことがほぼ確定しているのでは無い限り、クリーチャーへの除去はカウンターしない」というのが何より大事なポイントになります。
仮にドラゴンが4回殴れて16点削れたとしても、そのドラゴンを守った結果カウンターが尽きてしまい《出現の根本原理》が通ってしまっては意味がありません。相手の除去の枚数にも限りがありますし、こちらのクリーチャーはどれもパワーが3~4あるので、最終的に何か1枚残ればそれでOKです。
《黄金架のドラゴン》は除去されたら「宝物」トークン分お得ですし、《砕骨の巨人》は裏表で4点分の得と考えましょう。
全体除去が当たらず、マナ・手札の余裕ができるまで起動しない《不詳の安息地》だけでゴールすることは非常に多いです。マナや手札の余裕がないのに攻めに行って、相手の《神秘の論争》《ジュワー島の撹乱》などでハマって負けることは避けるように。
ただしこれらはあくまでプレイの指針でしかなく、勝つことができそうならクリーチャーを守ることも大切です。相手のライフを3以下まで落としていれば、仮に返しに《出現の根本原理》を通されてもエンド前の《厚かましい借り手》《サメ台風》だけで勝てるパターンなどもあるので、ライフを削れるときはしっかり削りましょう。
■その他のマッチアップについて
相性が良くない白単アグロがトップメタに上がってきたことにより、イゼットテンポはかなり厳しいポジションになってきています。(赤単はそこまで厳しくないと個人的には考えています)
ですがこのデッキを使っている/使いたい方のために、各マッチのマッチアップの思考だけ書いて終わりにしたいと思います。
★白単アグロ
カウンターが効きづらく、除去耐性の高いクリーチャーが多いため相性は悪い。大振りな上に《巨人落とし》される《黄金架のドラゴン》も信頼性低め。
サイドプランとしては《軽蔑的な一撃》《黄金架のドラゴン》といったカードをある程度減らし、単体除去と秘本を入れる完全コントロールプランがおすすめ。《サメ台風》設置で勝ちましょう。
★赤単アグロ
白単に比べると、1マナ域を放置できること、重いアクションが多く意外とカウンターが当たること、3マナ以下はすべて除去が当たることなどから、マッチアップを通して見るとそこまで不利ではありません。
単体除去を入れて《否認》《厚かましい借り手》あたりを少し減らすぐらいです。
★グルールアドベンチャー
《恋煩いの野獣》は1/1を蹴散らしながら無視して、地上と飛行でのダメージレースをするパターンが一番多いです。
もしこちらが先攻かつ相手が《恋煩いの野獣》スタートではないなら、先攻3T《砕骨の巨人》からマウントを取って有利に進めることもできます。
★ディミーアローグ
このマッチアップが一番、一般的に言われている相性と僕が実感している相性に大きな乖離があります。僕はラダーとニッセン合わせて8-1。圧勝してます。
メインはどうしても不利な戦いを強いられますが、サイド後は「大量の軽い単体除去+脱出クリーチャー」というパッケージによりかなり有利になります。相手のクロックは大したことないので、《砕骨の巨人》や《厚かましい借り手》を積極的にクリーチャーとして展開して、ライフにプレッシャーをかけていくのが重要なマッチアップです。
■最後に
先に述べた通り、白単アグロの隆盛によりイゼットテンポのポジションはかなり悪くなりました。ですがメタゲームが動く上で、またいつか使えるタイミングが来るかもしれませんし、このデッキで学んだことは他のデッキを使う上でも間違いなく生きてくることでしょう。ありがとうイゼット。またいつか会おう。
王者スゥルタイ根本原理。それを倒すべく現れた白単/赤単アグロ。その単色アグロを打ち破るのは…《グレートヘンジ》?《予言された壊滅》?
といった感じのメタゲーム。再来週末のリーグウィークエンドでは、世界のトッププロたちによって環境の回答が提示されることになります。僕もその一員として、その週末におけるベストデッキを見つけられるよう、引き続き精進していきたいと思います!
ということで今回の記事はここまで。次回はリーグのレポートをお届けします!